離婚と住宅ローンと破産
以下のような相談が増えています。
『妻が子どもたちを連れて県外の実家に帰ってしまいました。
子どもたちがのびのび過ごせるように都市部から少し離れたところで広い庭のある大きな家を建てましたが、こうなってしまっては、広すぎるし手入れに手間がかかるだけです。固定資産税も高いです。今のところ、妻は、自宅に戻ってくる気持ちはないようです。離婚が避けられないとなると、今後は、養育費に加えて住宅ローンも払わなければならなくなります。仕事の方は、残業も出来なくなって、会社の業績も悪く給料が増えることも期待できません。この状況では、とてもじゃないが生活が成り立ちません。先生、私は、どうしたらいいでしょうか?』
1 住宅ローンの支払いがあることは養育を減額する事情になるか?
住宅ローンの返済を養育費に優先させることは出来ませんので、養育費を減額する事情にはなりません。
2 破産するしかないのか?
破産は最後の手段なので、できる限り破産せずに済む方法を考えたいところです。
① せっかく、子どもたちのために建てた家です。例えば、自分が家から退去して、奥さんとお子さんたちに自宅に住んでもらう。奥さん達は住居費を免れることになるので、住宅ローンの一部を養育費の支払に充当し、養育費を減額してもらう、ということが考えられます。しかし、この場合、いつまで住むことを許すのか、お子さんたちが巣立った後に残る住宅ローンは払えるのか、などを検討する必要があります。
② 奥さんが(連帯)保証人となっている可能性もあります。その場合、自分が破産すると、奥さんも破産せざるを得ないという状況に追い込まれることになります。破産する場合には、基本的には財産を処分しなければなりませんので、学資保険などの子どものために蓄えた財産を失ってしまう可能性があります。失うことになる財産とを天秤にかけ、破産しない又は(連帯)保証人から解放する代わりに養育費や財産分与での譲歩を奥さんに求めるという交渉もありえます。
3 破産のメリット・デメリット
・メリット
住宅ローンだけでなくその他の借入もゼロとなり、再出発することができます。
※税金や国民保険など、一部の債権は対象外
・デメリット
基本的には、生活に必要な99万円以下の財産しか手元に残すことが出来ません。
また、いわゆるブラックリストに載りますので、5年程度は、クレジットカードが作れない、新しい借入ができない、携帯電話本体の分割購入が出来ない、賃貸住宅が借りづらくなる、などの支障が生じます。
4 破産すると会社や近所の人にバレるのでは?
破産しても会社や一般の人が知ることは、通常ありません。
周囲の人にバレずにこっそり破産手続を開始して終結した、という人は思っているよりたくさんいます。
ただし、自己破産をした場合、官報に掲載されることにはなっています。官報とは、国が発行する機関紙で、国の政策や国民の権利義務に関する公告などが掲載されているものです。官報に破産者の情報が掲載される理由としては、破産によって多くの利害関係人に影響があることが想定されるからといわれています。掲載される情報は氏名、住所、手続開始決定の日、手続きが開始された裁判所などです。住所まで載ってしまうということに不安を覚えるかもしれませんが、基本的に一般人は官報を見ていません。また、官報に掲載される破産者は相当な数に上りますから、官報を見た人から職場等に破産したことが広まってしまう可能性も極めて低いと考えられます。
5 住宅ローンのために人生を犠牲にする必要はない。
経済的な余裕がないと精神的に病んでしまいます。
破産、という手段があること、そのメリット・デメリットを十分に理解しておくだけでも気持ちが軽くなると思います。少しでも、破産という選択肢がよぎったのだれば、まずは、弁護士に相談して話しを聞いておきましょう。
この記事の執筆者
あい法律事務所
弁護士
山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)
取扱分野
家事案件(離婚・男女問題、相続)
経歴
法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。