熟年離婚。~切り出す前に準備すべきこと~
熟年離婚をする場合、離婚後の生活について、事前に計画を立てておく必要があります。
特に熟年夫婦には、経済的資源に限りがあることが多いため、勢いだけで離婚することは危険です。
ここでは、熟年離婚する際に、事前に行っておくべき準備について解説します。
① 離婚後の生活を具体的にイメージして、生活費を賄うことが出来るか正しく計算しておく。
◆定期的な収入の見通しがたつか
熟年離婚を行う場合、特に専業主婦(専業主夫)は、経済的に困窮しないための注意が必要です。
離婚した際に財産分与等を受けたとしても、収入が無ければいずれ足りなくなる日が来ますので、そのことを想定しておくべきでしょう。
離婚する前にハローワークに行ったり、非正規雇用で働くなどして、自分で稼ぐための足掛かりを作っておくことが肝心です。
職歴が乏しいと就職が難しくなるため、パソコンスキルを上げておくことや、就職に有利となる資格を取得しておくこと等が有益です。
年齢的に、再就職先を見つけることが困難な場合は、それに応じた生活規模で生活を設計できるかをよく考えなければなりません。
◆退職金について把握しておく
退職金は、企業によっては退職金規定をもって、その算定方法について定めています。
自分の勤務先はもとより、配偶者の勤務先はどのような退職金規定となっているのか、会社の募集要項などを確認し、把握に努めるのがいいでしょう。
また、その支給を受ける見込みがある場合、退職金の中から財産分与の対象とされる金額の按分方法などでトラブルが発生する場合もあります。
具体的な金額の見通し等が気になる場合は、一度弁護士相談をおすすめします。
② 住むところをどうするか。
熟年離婚をする場合、離婚後の住居を確保しておくことが望ましいです。
夫婦の一方が家の名義人であり、もう片方が離婚を切り出すケースでは、離婚後、自宅に住み続けることが出来ない可能性があります。
離婚後、自宅を出るのは自分か配偶者か、自宅を出る場合、次の住まいを自分で購入したり借りたりして用意するのか、実家等に身を寄せるのか、住居用意のために支出できる金額はどれくらいか、光熱費・通信費等の月々の支出はどのくらいになるのか、様々なことをよく検討しておくべきでしょう。
③ ②を踏まえて離婚にかかる費用や、離婚後の生活費をイメージしてみましょう
見落としがちですが、離婚後の生活にかかる費用(家賃・水道光熱費・食費・通信費・医療費・保険料etc.)に加え、離婚する際にも以下のような大きな費用がかかる可能性があります。
<離婚時にかかる4つの費用>
1.離婚にかかる費用
ご自身が有責な場合は慰謝料が発生します。
また、弁護士などの専門家に相談するのであれば、相談料が発生しますし、弁護士に依頼するのであれば弁護士費用が発生します。
2.引越しにかかる費用
今まで住んでいた家を出る場合は、実家に戻る場合でも引越し業者に依頼するのであれば費用が発生します。
新しく住居を借りるのであれば、初期費用も必要となってくるでしょう。
3.家電や家具を購入する費用
今まで夫婦が共同で使用していた家電や家具、車など、高価な動産を改めて購入する必要がが出てきます。
4.職探しにかかる費用
婚姻中、1人で生活できるほどの収入をあげていなかった方は、離婚後は新しい仕事を探すことも検討しなければいけません。
職探しにかかる費用は、高額ではありませんが、履歴書・証明写真・面接に行くための交通費や、場合によっては面接用のスーツなども必要になるでしょう。
離婚するための出費が、その後の生活に響いてしまうケースもあります。
不測の事態が起きやすい時期ですので、資金には余裕を持ちたい所ですが、なかなか難しいかもしれません。
④ 給与以外の収入を確保するために(年金分割について)
総務省によると65歳以上の単独世帯(無職)で必要な生活費は、平均月15万円ほどといわれています。
はたして、年金分割でもらえる金額でまかなえるのでしょうか。モデルケースをもとにご説明いたします。
<Aさん・専業主婦(国民年金 第3号被保険者)の場合>
婚姻期間:25年
夫:会社員(国民年金 第2号被保険者)
婚姻期間の平均標準報酬月額:36万円
婚姻期間分の厚生年金:年間76万9500円
年金分割で、Aさんが受け取れる年金は、年額約38万円(月額3万円強)です。
Aさん自身の年金(国民年金)が約5万円とした場合・・・
★Aさんの年金収入:8万円程
Aさんの場合、年金収入のほかに月7万円程を確保しなければなりませんが、毎月7万円を工面するのは、決して容易いことではありません。
⑤給与以外の収入を確保するために(財産分与の必要性)
熟年離婚の場合、結婚生活が長いため夫婦で協力して築いた財産が多くなる傾向にあり、財産分与により得られる財産も多くなる傾向にあります。
離婚後に安心・安定した生活を送るために、離婚の際に所有不動産・当面の生活費・老後資金などを確実に確保しておく必要があるため、財産分与を適切に行うことは非常に重要になってきますが、熟年夫婦の場合、夫婦で築いてきた財産は多く煩雑なため専門知識がないと難しく、損をしてしまうおそれもあります。
そのため、離婚問題に強い弁護士のサポートを受けながら慎重に進めることをおすすめします。
この記事の執筆者
あい法律事務所
弁護士
山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)
取扱分野
家事案件(離婚・男女問題、相続)
経歴
法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。