養育費を取り立てやすくなる?民事執行法改正による変化を弁護士が解説

 

改正民事執行法は令和元年5月10日に国会で成立し、令和元年5月17日に公布されました。本改正は、原則として令和2年4月1日から施行されます。

 

養育費は払っていない人がほとんど?

離婚後、子の監護をしない側の親には、養育費支払の義務が発生します。
しかし、日本では全体の8割もの人が養育費を払っておらず、ちゃんと養育費を受給しているのは、たったの2割程度に過ぎません。
(厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf

なぜ、こんなにも養育費を受けとっていない人が多いのでしょうか。

全く受給したことのない母子世帯が56.0%もの高い数値を示しています。
また、54.2%と半数以上の人が、離婚時に養育費支払の取り決めをしていないのです。

 

養育費の取決めをしなかった、そこにはどんな事情があるのでしょうか。

 相手と関わりたくない:31.4%
 相手に支払う能力がないと思った:20.8%
 相手に支払う意思がないと思った:17.8%
 取り決めの交渉がわずらわしい:5.4%
 取り決めの交渉をしたがまとまらなかった:5.4%
 相手から身体的・精神的暴力を受けた
 自分の収入等で経済的に問題がない:2.8%
 現在交渉中または今後交渉予定である:0.9%
 子供を引き取った方が、養育費を負担するものと思っていた:0.6%
 相手に養育費を請求できることを知らなかった:0.1%

 

養育費の未払い問題は支払義務のある親が支払わないことにその原因があるように思われがちですが、実際には、養育費の支払いを求めようとしない人の多さも、その大きな問題の1つとなっています。

 

離婚したら今後一切関係を持ちたくないと考える人が多いのは仕方のないことかもしれません。しかし、母子世帯の多くが低所得で、相対的貧困率は50%を超えています。

離婚時には拒否した養育費が、将来的に必要になる可能性は決して低くありません。

現在、離婚協議中の人は、養育費の取り決めはしっかり行うようにしてください。

 

養育費の確保

養育費支払いの取決めを次の形で残すこと

 ①公正証書
 ②調停調書
 ③審判書
 ④判決
③と④は紛争性の高い事案なので、まずは、①か②による取決めを目指しましょう。
口約束やメモ・覚書きなどは避けましょう。

 

未払いが発生してしまったら

(1)養育費の取決めを②から④でしている場合には、「履行勧告」をしてみましょう。
 養育費の支払いをしない相手方に対して、家庭裁判所が、養育費を支払うよう説得したり,勧告したりしてくれます。
 費用がかからず、手続が簡易であるにもかかわらず、5割以上のケースで支払いが実施されているので、まずはこれを試してみるべきでしょう。
(2)給料の差押え
 差し押さえることのできる財産は、給料に限られないのですが、将来の養育費まで差押え可能であることを考えると、最初の選択肢としては給料となります。

 ◎民事執行法の改正により差押えによる回収可能性が高まりました。
  養育費を払ってもらえず、差押えをしようとするときにネックになるのが、差し押さえる財産を見つけることです。
  民事執行方の改正によって、差押さえる財産を見つけやすくなったのです。
  どんな改正がなされたかというと、以下の3点が重要です。

  ①財産開示手続時の出廷拒否や虚偽に対する罰則の強化
  ②財産開示手続きの利用者枠の拡大された
  ③第三者からの情報取得手続ができるようになった

 

①財産開示手続時の出廷拒否や虚偽に対する罰則が強化された

この罰則強化により、元夫の出廷拒否や財産情報の虚偽申告が防げ、確実に回収できる財産を確認できる可能性が高くなりました。

財産開示手続は法改正以前から設けられている制度で、債務者(元夫)を裁判所に出頭させて、所有する全財産を自ら開示させる手続きです。

しかし、改正以前の財産開示手続は債務者(元夫)が裁判所に出頭しなかったり、虚偽申告するケースが後を絶たず、実効性の乏しい制度でした。

最大30万円の過料という罰則の弱さが原因と言われています。
※過料とは行政上における軽い罪を犯した際に支払わせる金銭を指します。
未払いの養育費が数百万円と多く、30万円支払った方が、まだましという人も少なくありませんでした。
改正後の財産開示手続はこの点を踏まえ、罰則の強化を図り、罰則が行政罰から下記の刑事罰へ変更されています。
「 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」
罰則を犯せば刑事罰処分の対象となり、前科者として登録されてしまうようになったのです。

 

②財産開示手続きの利用者枠が拡大された
財産開示手続の申し立てでは、申立人が「債務名義」を取得していることが必須要件とされています。
※債務名義とは強制執行により、債権者が差し押さえできる権利を有することを示した公的文書で、下記情報が記載されたものです。
改正前は、判決、和解調書、調停調書、審判書を債務名義としており、執行認諾文言付公正証書は債務名義として認められていませんでした。
しかし、民事執行法の改正によって「執行認諾文言付き公正証書」が債務名義として、新たに加えられ、財産開示手続きの利用枠が拡大されました。

 

③第三者からの情報取得手続ができるようになった
財産開示手続による財産情報開示は、あくまで元夫の自己申告です。
そのため出廷しておけば、虚偽申告しても上手くごまかせるのではと考える人もいるでしょう。

 

改正民事執行法では、こういった考えに対する対処策がしっかりとフォローされています。
改正に伴い、裁判所は第三者から元夫が所有する財産情報を取得できるようになったのです。
これは改正後、新たに追加された制度で「第三者からの情報取得手続」といいます。

「第三者からの情報取得手続」で、取得できる元夫の財産情報は以下のとおりです。

 A 勤務先
 B 預貯金や有価証券
 C 不動産

A 勤務先
元夫の勤務先に給与の差し押さえをしたが、退職しており、差し押さえできなかった。
こんなケースは珍しい話ではありません。
この場合、改正前なら自ら新たな勤務先を探し出す必要があったのですが、「第三者からの情報取得手続」をすれば、裁判所が取得した情報から勤務先が明らかになります。
下記の機関に裁判所が情報開示請求をして、勤務先の情報を獲得してくれるのです。
・各市町村
・税務署
・日本年金機構

 

B 預貯金や有価証券の情報取得
給与の差し押さえは元夫の生活への支障を考慮して、差し押さえできる上限額が決められています。
そのため、未払い額を全額回収するために、数ヵ月の期間を有することも珍しくありません。
しかし、預貯金や有価証券であれば、差し押さえの上限額が決められていないので、一度に全額回収することも可能です。
元夫が預貯金や有価証券を所有しているならば、給与よりもこちらを差し押さえた方が効率的でしょう。
裁判所で「第三者からの情報取得手続」をすれば、銀行本店に全支店の情報開示請求ができ、短時間で正確な情報を取得することができます。

 

C 不動産の情報取得
差し押さえ対象の中で最も高額になる可能性が高いのが不動産です。
元夫が離婚後に個人で不動産ビジネスを始めたといったような場合、改正以前なら、これら所有している不動産を特定するのは困難だったでしょう。
ですが、これも裁判所に第三者からの情報取得手続きをすれば、簡単に調べ上げることができます。

不動産の所得時には、登記所で不動産登記することが義務付けられています。
「第三者からの情報取得手続」により裁判所が、不動産所在地を管轄する下記いずれかの登記所に情報開示請求すれば、元夫が保有する不動産情報を確実に取得することが可能です。
・法務局
・地方法務局
・地方法務局の支所または出張所

しかし、この情報開示請求は2020年時点では開始されていません。
この情報開示に関しては、2021年5月中旬頃を目処に手続きできるようになる予定です。

●財産開示手続の注意点
債務名義を取得していたとしても、申し立て時の状況が下記に該当する場合は、財産開示手続自体が無効にされてしまいます。

・過去3年以内に元夫に対して財産開示手続を実施した
・元夫が債務整理の手続を開始している

 

まとめ

改正民事執行法では、裁判所に申し立てることで、元配偶者の勤務先、預貯金や有価証券の情報取得、不動産などの情報取得が可能となります。養育費の差し押さえ手続きをスムーズに進められるようになることは間違いありません。

ただし、「確定判決・調停調書・公正証書で養育費の支払いを取り決めしている」「元配偶者の住んでいる地域がわかっている」などの条件がありますので、注意してください。これから離婚を検討していて養育費が発生するのであれば、双方のためにはもちろん、子どものためにも公的な書類を作成することを強くおすすめします。

離婚や養育費の話し合いについてお困りの方は是非一度ご相談ください。

087-832-0550受付 平日9:00~19:00あい法律事務所(香川県弁護士会所属) 最寄り駅:琴電/瓦町駅 JR/栗林公園北口駅

この記事の執筆者

弁護士山口恭平

あい法律事務所

弁護士

山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)

取扱分野

家事案件(離婚・男女問題、相続)

経歴

法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。