住宅ローンが残っている不動産の財産分与について
財産分与の対象
自宅などの不動産に加えて、その不動産購入のために借り入れた住宅ローンも財産分与の対象となります。
住宅ローンと不動産の関係
住宅ローンとローンの目的となった不動産とは分離して考えることはできません。
住宅ローンと不動産はセットで考えなければなりません。
オーバーローン、アンダーローン
オーバーローンとは、不動産を売却してもローンが残ってしまう状態の不動産とローンの関係をいいます。
アンダーローンとは、オーバーローンとは逆に、不動産を売却して売却代金をローンの返済にあてても、売却代金が残る状態の不動産とローンの関係をいいます。
●オーバーローンかどうかの判断
(不動産の価値-住宅ローンの残債)≧0
となっていれば、オーバーローンではなく、アンダーローンです。
例)不動産の価値2000万円-住宅ローンの残債1500万円=500万円の状態は、オーバーローンではなく、アンダーローンです。
不動産の価値
不動産の価値は、市場価値を基準に評価されます。
不動産の市場価値は、不動産会社の査定書や固定資産評価証明書、不動産鑑定士による鑑定書を基礎として導きます。
オーバーローン不動産の実際の分与方法
① 不動産及び住宅ローンの名義人が当該不動産に住み続ける場合
残りの住宅ローンは、そこに住み続ける住宅ローンの名義人が支払うことになります。
その他に、預貯金等がある場合でも、基本的には、それとは切り分けて清算されます。
例)夫名義不動産の価値:2000万円
夫名義住宅ローンの残債:3000万円→1000万円のオーバーローン状態
妻名義の預貯金:500万円
この状態で、夫が当該不動産に積み続ける場合、夫は妻に、オーバーローン部分1000万円の半分の500万円の負担を求めることは出来ません。夫は、妻に対して、預貯金500万円の半分の250万円の分与を求めることが出来るのみとなります。)
② 不動産を処分する場合
不動産を売却し、残住宅ローンの返済に充てます。
それでも残る残住宅ローンは、夫婦の収入割合に応じて負担することになります。
例)不動産の売却額(売却手数料差し引き後):2000万円
不動産の売却額を返済に充てたあとの住宅ローンの残債:1000万円
夫の収入500万円
妻の収入250万円
1000万円のうち3分の2(約666.6万円)が夫負担、3分の1(約333.3万円)が妻負担となります。
③ 名義人ではない方が当該不動産に住み続ける場合
・不動産を取得する場合
残りの住宅ローンは住み続ける側が全て支払わなければなりません。
金融機関との関係で不動産の名義変更は出来ないことも多いので、実際に名義変更をするのは、住宅ローンの完済時ということも少なくありません。
住み続ける側で金融機関の使用を得られる収入があれば、借換えをして、住宅ローンの名義人を住み続ける側名義に変更し、同時に不動産の名義も住み続ける側にすることが出来ます。
住み続ける側の収入が少なく、残りの住宅ローンを支払っていくことが難しい場合、不動産を取得するという結論を考え直さなければならない可能性があります。
・不動産を借りる場合
住宅ローンを支払っていくだけの収入がない場合、例えば子どもが社会に出るまでという期間のもと、有償または無償で当該不動産を借りるという選択肢も検討すべきです。
アンダーローン不動産の分与方法
例)夫名義不動産の価値:3000万円
夫名義残住宅ローン額:2000万円
夫名義預貯金:1000万円
妻名義預貯金:500万円
この場合に、妻が不動産を取得し、住宅ローンも妻が支払って行く場合、妻は、夫に対して金250万円の財産分与をしなければなりません(分与割合は50%とします。)。
(計算式)
全体の財産=3000万円-2000万円+1000万円+500万円=2500万円
全体の財産の半分=2500万円×50%=1250万円
妻側の取得財産=3000万円-2000万円+500万円=1500万円
妻側の取得財産の超過分=分与しなければならない金額=1500万円-1250万円=250万円
不動産の財産分与と税金
○分与する側(譲渡所得税)
ほとんどの事案で譲渡所得税がかかることはありません。
なぜなら、譲渡所得は以下の計算式でプラスになる場合にかかるのですが、そのような場合は、土地の地価が急激に上昇した場合などの例外的な事情のある場合に限定されるからです。もっとも、3000万円の特別控除を受けるためには、確定申告が必要になりますので、注意が必要です。
家や土地の時価-(取得費(土地の購入価額等+建物の購入価額等-建物の減価償却費相当額)+譲渡費用-特別控除額(離婚後の譲渡であれば3000万円))=譲渡所得
○分与される側(贈与税)
離婚により財産の分与を受けた場合、通常、贈与税がかかることはありません。これは、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるからです。
ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。
1 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
この場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
2 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。
この記事の執筆者
あい法律事務所
弁護士
山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)
取扱分野
家事案件(離婚・男女問題、相続)
経歴
法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。