離婚調停にかかる費用(弁護士費用の相場)について
相手方と話合いをしたけれど話にならなかった。
相手方が怖くて直接話をするのは避けたい。
などの理由で離婚調停を始めたいと考えたとき、離婚調停にかかる費用がどれくらいかかるのかは気になるポイントだろうと思います。
○離婚調停の申し立てにかかる費用
離婚調停を申し立てるときに必要な費用は、3000円程度です。
○弁護士に依頼した場合(着手金の相場)
上記の申立費用に加えて、弁護士費用(着手金)として少なくとも30万円から50万円くらいはかかります。
○弁護士に依頼する場合としない場合で費用が随分異なるという印象を持たれたと思います。
弁護士費用の負担が大きいと感じ、弁護士に依頼するのをためらってしまうかもしれません。
また、離婚調停では裁判所・調停委員が話し合いの仲介をしてくれるため、弁護士がいなくても問題なく話し合いを進められる気がして、弁護士に依頼する必要性を感じないという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、離婚調停で納得のいく解決・後悔の残らない解決・早期の解決を目指すのであれば、弁護士に依頼するのがおすすめです。
○離婚調停とは
裁判所で、離婚すること自体や親権・養育費・面会交流・財産分与・慰謝料など、離婚に関連する問題について話合いをする手続きです。
直接相手方話をすることは(原則として)なく、「調停委員」(男性と女性各1名ずつ)2名が間に入って話合いをします。
○離婚調停にかかる費用
① 申立費用
収入印紙代 1200円
郵便切手代 1000円程度
夫婦の戸籍謄本の取得費用 450円
② その他実費
住民票、課税証明書など必要書類の取得費用 1000円程度
調停調書の交付手数料など 1000円程度
③ 弁護士費用
法律相談料(相場)30分5000円〜1万円程度
着手金(相場)30万円~50万円程度
報酬金(相場)30万円~100万円程度
日当・実費 日当3万円~7万円程度
・着手金
着手金とは、弁護士に依頼したとき最初に支払うお金のことです。
結果の成功・不成功にかかわりなく、弁護士に動いてもらうために必要になるお金です。
・報酬金
報酬金は、弁護士に依頼した事件が終了したときに支払うお金です。結果の成功・不成功や成功の度合いに応じて金額が異なってきます(成功報酬)。
・日当・実費
日当とは、弁護士が調停のために裁判所に出向くなど、事務所を離れたときの手当として支払われる費用のことです。
実費とは、弁護士が事件処理をするうえで必要になった費用のことで、通信費、コピー代、交通費、書類の収集費用、収入印紙代などです。
※以前は、弁護士の費用に関して基準が設けられていましたが(旧弁護士報酬基準)、現在は各事務所が自由に設定できるようになっており、料金体系は事務所によって様々です。
ご自身の場合にかかる弁護士費用の概算をお知りになりたい方は、ご依頼を検討されている法律事務所のホームページなどを確認されるとよいでしょう。
以下は、あくまでだいたいの相場ということでお読みください。
・着手金
着手金の相場は、30万円~50万円程度です。
着手金については、たとえば「離婚調停を依頼する場合は40万円」という形で金額が固定されていることが多い傾向です。
ただ、獲得したい条件や、事案の難しさなどにより費用が追加されるという設定になっていることもあります。
たとえば、「基本料金40万円とし、財産分与・慰謝料を請求する場合は20万円を追加する」などといった設定です。
・報酬金
報酬金は事案により大きく異なりますが、相場としては30万円~100万円程度といえるでしょう。
通常、離婚など「できた・できなかった」で切り分けられる事項については、「離婚できた場合は30万円」という形で一律に定められています。
他方、財産分与や慰謝料など、度合いが測れる事項については、たとえば「経済的利益の20%」という形で割合が定められています。得られた経済的利益の金額に応じて異なる割合が定められていることもあります。
経済的利益とは、相手方から受け取る金銭や相手の請求を減額した分などのことです。
・日当・実費
日当の相場は5万円~7万円程度です。
弁護士が出張するのにかかる時間に応じ、半日5万円、1日7万円などと設定されている場合もあります。
また、基本的には日当を請求しないとしつつ、遠方の裁判所に出張する必要がある場合や、所定の回数を超えて出頭する場合にのみ請求するとしている事務所もあります。
実費の金額は事案により様々であり、特に交通費が高額になることもありますが、数万円程度には収まることが多いでしょう。
具体例
報酬金について、「離婚を達成した場合30万円 + 得られた経済的利益が300万円までは20%・300万円を超える場合は10%」と設定されているとき、それぞれの結果における報酬金は以下のようになります。
結果 報酬金
Aさん 離婚が成立し、財産分与として100万円を受け取った。 30万円 + 20万円(100万円の20%)= 50万円
Bさん 離婚が成立し、財産分与として1000万円を受け取った。 30万円 + 100万円(1000万円の10% = 130万円
Cさん 離婚が成立し、経済的利益は得ていない。 30万円
Dさん 離婚が成立し、相手方からの慰謝料請求について100万円減額した。 30万円 + 20万円(100万円の20%)= 50万円
上記の例では、経済的利益のうち弁護士費用に充てる割合をわかりやすく20%、10%としましたが、実際はどのくらいの割合に設定されていることが多いかを見るには、旧弁護士報酬基準を参照するとよいでしょう。
旧弁護士報酬基準では、経済的利益のうち弁護士費用に充てる割合について、以下のように定められていました。
経済的な利益の額が300万円以下の場合は経済的利益の16%
300万円を超え3000万円以下の場合10% + 18万円
3000万円を超え3億円以下の場合6% + 138万円
3億円を超える場合4% + 738万円
参考:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準
現在各法律事務所が独自に設定している報酬基準も、旧弁護士報酬基準を踏襲していることが多いため、相場としては上記のようになるといえます。
>離婚調停が長引く場合の弁護士費用
離婚調停は、1回あたり2時間程度実施され、時間内に話がまとまらない場合は2回目、3回目と、話がまとまるまで(または、話がまとまらず終了するまで)回数が重ねられていきます。
離婚調停が長引くと、それだけ弁護士が裁判所へ出向いて対応する回数・時間が多くなるため、追加で料金が発生するというシステムを採用している法律事務所もあります。
たとえば、3回目までは日当はかからない(着手金の中に含まれている)けれども、4回目以降は1回あたり3万円の日当がかかるというような設定になっていることがあります。
そのような場合、予想外に弁護士費用が高額になってしまうこともありますので、料金がどのようになっているか依頼を検討している事務所に確認されることをお勧めします。
>調停が長引いたときに弁護士費用が高くなるシステムについて
このシステムは、労力(出廷回数)に比例して報酬が高くなるため合理的であるようにも思えます。
しかし、弁護士と依頼者との信頼関係を保つためには好ましくないと考えます。
依頼者としては、できるだけ早く解決して欲しいと考えているはずです。
また、スピーディに解決してこそ真のプロフェッショナルであるといえます。
ところが、このシステムは、長引けば長引くほど弁護士にとってはメリット(報酬が増える)となり、依頼者の利益(早期解決)と反する可能性が高くなります。
依頼を受けた弁護士は早期解決を目指していても、依頼者からするとそうは見えない場合があります。
したがって、このシステムは、解決が長期化した場合の信頼関係を維持するという点ではデメリットが大きいと思われます。
○離婚調停の費用は誰が負担するのか。
・離婚調停の申立てにかかる費用
申立人負担です。
・弁護士費用
弁護士に依頼した本人それぞれが負担します。
離婚に至る原因(不倫や暴力など)が相手方にある場合、相手方のせいで負担を強いられたものとして、弁護士費用は、相手方に支払ってもらいたい、という気持ちになるのも無理ありません。
しかし、弁護士費用を相手方に支払ってもらうことはできないのが原則です。
○高額の費用を払ってでも弁護士に依頼すべきか。
→調停を弁護士に依頼するメリットとデメリット
・メリット
① 書面の作成を任せることができる
弁護士に依頼すれば、調停に必要な書類の作成を全て任せることができます。
離婚調停では、申立書類以外にもいくつか書類の提出が必要になる場面があります。
たとえば、お互いの言い分を整理するために自分の意向をまとめた書面を作成して提出したり、財産を分ける前提として夫婦の財産についての一覧表を作成して提出したり、財産に関する資料(預金通帳のコピーなど)を揃えて出すことが求められる場面があります。
弁護士に依頼した場合は、弁護士がこれらの書類を全て作成し、収集し、整理して提出してくれます。
もちろん、弁護士と打ち合わせをしたり、財産に関する資料を弁護士に渡したりする必要はありますが、自分で全て行うよりも手間と時間を大幅にカットすることができます。
また、書面の内容面についても、法律的な観点から整理された適切なものにすることができるので、調停での話し合いを円滑に進めるのに役立ち、解決までの時間が短縮できることもあります。
② 相手方との窓口になってくれる
弁護士に依頼すれば弁護士が相手方とのやりとりの窓口となってくれます。
自分で相手方と直接やりとりをする必要がなくなるので、精神的に楽になることでしょう。
なお、調停を申し立てれば調停委員が仲介に入ってくれるので、弁護士に依頼しなくても相手方と直接やり取りしなくて済むようにも思えます。確かに、離婚についての話し合いは調停委員を仲介にして進めることができますが、調停の日以外にも荷物の引き取りや、子どもに関することなど随時連絡が必要になる場合もあり、そのような連絡は自分でやらなければなりません。
そのため、特にDVなどにより別居を開始しており、相手方と接触したくない、居場所も秘匿したいという場合などは、弁護士が窓口になってくれることが大きなメリットといえるでしょう。
③ 調停に同席してフォローしてくれる
離婚調停を弁護士に依頼した場合、弁護士は代理人として調停に同席します。
調停の席では、調停委員からの質問に答えたり、こちらの意向を伝えたりする必要がありますが、緊張してしまったり、感情的になってしまったりして思うように話せない場合もあります。そのような場合は、弁護士が適宜フォローしてくれます。
また、弁護士は法律的な問題について整理して調停委員に伝えてくれます。調停委員は、弁護士や裁判官ではなく、法律の専門家ではないので、どのような法律上の問題があるのかが分かっていない場合もあります。そのような場合には、「こういう法律上の問題があり、こういう風に整理すべきですよ。次回までにお互いにこの点を準備することにしましょう。」と調停の進行を弁護士がコントロールすることもあります。話のポイントがはっきりして調停の進行が円滑になり、その結果早く解決できることもあります。
④ 離婚に関する問題全体の解決を図ってくれる
離婚調停は話し合いの手続きであり、裁判で裁判官に判断をもらうよりも柔軟な解決ができる点がメリットといえます。ただし、このメリットを活かすには話し合いをうまくまとめる必要があり、そのためには裁判になったらどうなるかを見通した上で交渉し、落とし所を見極めていくことが重要です。
これは専門知識や経験、交渉の心得のある弁護士に任せないと、なかなか難しいものです。
また、弁護士は、離婚後にどうなるかも考慮し、依頼者の最大限の利益を実現できるように方針・戦略を立て、全体的な解決を図ってくれます。
たとえば、離婚後の子どもの教育費が心配という場合、通常裁判で認められる養育費の金額に私立学校や習い事の月謝・塾代などを考慮した金額を加算してもらい、その代わり相手方が望む早期の離婚に応じる提案を出すなどです。
⑤ 婚姻費用の請求
未成年者を監護しており、相手方よりも収入が少ない場合、離婚するまでの間の生活費(婚姻費用)を請求する必要があります。
婚姻費用は、支払って欲しいと請求をした時点からしかもらえないのが原則であるため、別居したら速やかに請求をする必要があります。
弁護士に依頼する場合、婚姻費用を請求できる状態であれば依頼後速やかに請求をしてくれます。
婚姻費用を支払う側にとっては、毎月の支払いは結構な負担になることも多く、この負担を無くしたいがために早く離婚を成立させたいと考えることがあります。
そのため、婚姻費用を支払ってもらうようにすると、生活費を確保できるだけではなく、離婚調停での話し合いもスムーズに進められることがあります。
もちろん、自分で請求することもできますが、婚姻費用の適正額を計算したり、相手方からの反論や支払拒否に対応したりするのは専門家でないと難しい面もあります。
⑥ 状況を説明し適切な判断ができるよう導いてくれる
調停委員は法律の専門家ではありません。
そのため、「相手方の言い分とこちらの言い分の中間値で合意するのがよいのではないか」など少々雑な提案をしてくることもあります。
また、調停委員に相手方の言い分をそのまま伝えられたりすると、調停委員が相手方に味方しているように見えたり、相手方の方が正しいと言われているように感じ戸惑ってしまうこともあるでしょう。
そのような場合、自分1人で対応していると場の雰囲気に流されて「調停委員の言っていることが正しい」と思い込んでしまい、不利な条件を飲んでしまう恐れもあります。
弁護士が同席している場合は、調停委員に誤解を招く言動があったときには指摘してくれ、調停委員から伝えられた相手方の言い分や、調停委員からの提案についても、どういう意味なのか説明してくれます。
それにより、雰囲気に流されたり、誤解をすることなく、適切な判断ができる状態にすることができます。
⑦ 調停調書の意味内容を説明してくれる
調停で話し合いがまとまった場合、合意内容を書面にした「調停調書」というものが作成されます。
一度、調停が成立してしまうと、後から覆すことはできなくなります。
そのため、調停条項の意味を正しく理解し、本当に合意したとおりの内容になっているか、慎重にチェックする必要があります。
しかし、調停条項には専門用語が使用されており、意味を正しく理解することが難しいことがあります。
弁護士に依頼している場合は、弁護士が調停条項の意味を説明してくれ、合意したとおりの内容になっているかもチェックしてくれるので安心です。
⑧ 裁判手続きに速やかに移行することができる
離婚調停での話し合いでは解決しなかった場合、次の段階として離婚裁判(離婚訴訟)に進むことになります。
離婚裁判は、離婚調停のような話し合いの手続きではなく、裁判官に判断してもらう手続きです。
裁判手続きは法律に基づいて厳格に進められますので、自分で対応するのは非常に困難であり、調停段階で弁護士に依頼していなかった方も離婚裁判になったら依頼するというケースが多いです。
離婚裁判になって初めて弁護士に依頼する場合、弁護士を探したり、依頼した弁護士にこれまでの経緯について説明する必要があるので、離婚裁判を起こすまでに時間がかかってしまいます。
他方、調停段階から弁護士に依頼しており、引き続きその弁護士に裁判の対応を依頼する場合は、速やかに離婚裁判を起こすことができます。
⑨ 離婚調停終了後もサポートしてくれる
離婚調停で離婚が成立したら調停の手続きは終了し、裁判所の関与はなくなります。
しかしその後も市町村役場への届出や、子どもの氏の変更、社会保険や年金の手続きなど、様々な手続きをする必要があります。
これらの手続きは、基本的に自分で対応する必要がありますが、どこで手続きをすればいいか、どこに問い合わせればよいかなど、弁護士に聞けば教えてくれるでしょう。
また、調停で養育費、財産分与、慰謝料など相手方からお金が支払われる取り決めになった場合、通常実際にお金が支払われるのは調停終了後になるため、支払いがされたかどうかについて裁判所は関与しません。そのため、弁護士に依頼していないと、自分で支払確認や支払われない場合の対処をしなくてはなりません。
弁護士に依頼している場合は、支払い期限がずっと先に設定されてるなどの事情がない限り、約束どおりの支払いがあるか弁護士が確認してくれることになります。
そして万一支払いがなかった場合には、弁護士にそのまま強制執行のサポートを依頼することも可能です。
○さいごに
弁護士費用は、負担に感じることが多いと考えられますが、弁護士に依頼するメリットも多く、よりよい解決のためには依頼することがおすすめです。
費用面が心配な方も、まずは離婚問題に精通した弁護士に相談されることをおすすめします。
離婚に強い弁護士であれば、費用面や今後の方向性について親身になって相談に応じてくれると思います。
この記事の執筆者
あい法律事務所
弁護士
山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)
取扱分野
家事案件(離婚・男女問題、相続)
経歴
法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。