親権の停止(離婚後)とは

○そもそも親権とは?

民法上は、『親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う』(民法820条)と定められています。

子の監護及び教育をする権利・義務とは、未成年の子どもを育てるために親が持つ権利と義務の総称です。

具体的には、子どもの身の回りの世話をする、子どもに教育やしつけをする、子どもの住む場所を決める、子どもの財産を管理するといったことが含まれています。

「子の利益のために」という文言は、平成23年改正で追加されました。

親権が子どもの利益のために行われるべきであることは、当然のことです。しかし、親権が子どもに対する親の支配権のように誤解され、親権の濫用による児童虐待にもつながっているとの指摘があり、明言されることになりました。

 

○親権の停止とは?

家庭裁判所の審判により一時的(最長2年)に親権を行使することが出来なくすることをいいます(民法834条の2)。

 

○親権停止期間中の親権者の代わりは誰がするのか?

離婚後、単独親権となっている場合、親権者の親権停止後、親権者は、速やかに、「未成年後見人」を選任するよう家庭裁判所に請求しなければなりません。

未成年後見人が親権者の代わりとして、子どもの監護養育の権利義務を獲得します。

※適切な未成年後見人が選任されるまでの間は、児童相談所の所長が親権を代行します。

 

○誰が未成年後見人に選任されるのか?

当然に、親権者とならなかった側の父又は母が未成年後見人に選任されるわけではありません。

未成年後見人は、家庭裁判所が、①子どもの年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、②未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無、未成年被後見人の意見、③その他一切の事情を考慮して選任します(民法840条)。

親権者とならなかった側の父又は母よりも、親権者の父母(子どもの祖父母)の方が適当であるとして、祖父母が未成年後見人に選任されることも珍しくありません。

 

○どんなときに親権は停止されるのか?

 「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」に親権は停止されます。

具体的には、以下のような場合に親権が停止されます。

 

親権者が罪を犯して服役中であるような場合、薬物中毒で本人の生活自体もままならないような場合、精神障害などで長期入院している場合

身体的虐待

子どもの身体に外傷を生じるような暴力を加えることをいいます。

(例)殴る、蹴る、首を絞める、激しく揺さぶる、熱湯をかける、熱いものを身体に押し当てる、重いものを身体に落とす、溺れさせる、逆さづりにする、食事や水を与えない、寒い時や猛暑の時に戸外に締め出すなど。

 

性的虐待

子どもにわいせつな行為をすること、させることをいいます。

(例)性的暴力をふるう、性交、性的行為の強要、性器を触るまたは触らせる、性器や性交の場面を見せるなど。

 

ネグレクト

子どもの心身の正常な発達を妨げるような、長時間の放置、保護者としての監護の責任を怠ることをいいます。

(例)十分な食事や睡眠を与えない、他のきょうだいの面倒を親に代わって過度に子どもに見させる、家に閉じ込めて外との交流を絶つ、学校に登校させない、乳幼児を家に残したまま度々外出や外泊をする、病気やけがの時に病院に連れて行かない、下着や衣類を長期間着替えさせない、真冬でも極端な薄着をさせる、手洗いや洗髪などの身の回りの世話を放置する、大量のごみのなかで生活させる、保護者以外の同居人による身体的・性的・心理的虐待などがあるのに保護者が見て見ぬふりをして放置するなど。

 

心理的虐待

児童に著しい心的外傷を与える言動を行うことをいいます。

(例)子どもの自尊心を傷つける発言を繰り返す、脅し、脅迫めいたことを言う、子どもを無視したり、拒否的な態度を繰り返す、子どもの目の前で配偶者や同居する家族などに対して暴力をふるうなど。

 

また、親権停止には上記のような典型的な虐待事例の他、以下のような「親権の行使が不適当」な場合も含まれます。

 

医療ネグレクト

(例)乳児につき直ちに治療及び手術を受けなければならなかったが、親権者は治療は同意するものの子を見舞う回数も少なく、おむつや洋服の補充を求めても直ちには対応せず、病状や治療方針を伝えるための面談の予定をキャンセルしたり、大幅に遅れて来院したり、平日は父母ともに働いており、子に面会に行く時間が取れないと述べている事例

(例)乳児につき早期に手術を受けなければ衰弱して死亡する可能性があると診断されたが、親権者の宗教上の理由から輸血に事前の同意をしなかった事例

 

親権者に監護養育の実績も意思もない場合

(例)祖母の妹に育てられている子について何らかの疾病が疑われるが、親権者が正当な理由なく医療行為に同意しないため、詳しい検査や定期的通院が困難な事例

 

諸手続きへの非協力

(例)軽度精神発達障害のある中学3年生が特別支援学級に進学する入学手続を親権者が取ろうとしない事例

(例)親権者である父から暴行を受け、自立援助ホームで生活している高校3年生につき、就職先の会社からパスポートの取得を求められているなど、就職の諸手続きを進めるためには親権者の同意が必要であるが、親権者が協力を拒んでいる事例

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この記事の執筆者

弁護士山口恭平

あい法律事務所

弁護士

山口 恭平(Yamaguchi Kyohei)

取扱分野

家事案件(離婚・男女問題、相続)

経歴

法政大学法律学科卒業後、早稲田大学大学院法務研究科に進学。卒業後、平成26年に弁護士登録。同年のぞみ総合法律事務所入所。平成29年にあい法律事務所入所。平成30年同事務所にてパートナー就任し現在に至る。